しかし、顎骨の露出や壊死の前に顎骨骨髄炎の症状が現われ、その時期に抗菌薬の経口投与を長期間行えば、症状を寛解または治癒できる可能性があるという。静岡県立静岡がんセンター口腔外科部長の大田洋二郎氏が、10月30日〜11月1日に開催された第46回日本癌治療学会総会のポスターセッションで報告した。
BP製剤は骨粗鬆症や、乳癌、多発性骨髄腫などの治療に用いられている。ここ数年、日本でも副作用として顎骨壊死が起こるという報告が相次ぎ、2006年には該当製剤の添付文書改訂も行われている。だが、その発症機序や臨床経過は詳しく分かっていない。
大田氏は、BP製剤による顎骨壊死と見られる症例を5例提示しながら、顎骨壊死の臨床経過とともに、抗菌薬による治療の可能性を示した。ここではそのうち2例を紹介する。
1つ目の症例は、85歳の多発性骨髄腫の患者。2006年7月にBP製剤を投与開始した。翌2007年2月から右下顎歯肉の疼痛を自覚しており、4月に大田氏のもとを紹介受診。そのとき、小さい複数の膿瘍様病変が確認できた。
そこで、BP製剤を継続したままアモキシシリンを750mg分3、7日間投与を行ったところ、一時的に炎症が軽減し、膿瘍が消失した。だが、6月には膿瘍が再度出現し、下顎骨骨髄炎の診断が下された。そこで7月からクリンダマイシン600mg分4の長期投与を開始したところ、膿瘍は寛解したが、骨の露出は続いている
2つ目の症例は、乳癌由来の多発性骨転移を来した患者。2006年7月からBP製剤で治療を始めたが、翌2007年6月に左上顎の歯肉が発赤。小さい膿瘍が2、3個見付かり、患者も病変部の疼痛と、口の中に苦い味がすることを訴えた。
7月にアモキシシリンを750mg分3、7日間投与。著効を示し、発赤が消失するも、違和感が残っていたため、10月に同薬1500mg分3の長期投与を開始した。この時期に、BP製剤の投与も休止した。
当初、炎症は著しく改善したが、症状が改善しなかったために、2008年2月、クリンダマイシン600mg分4の長期投与に変更。6月に下痢のため抗菌薬を中止したが、メトロニダゾール投与で改善した。現在、膿瘍は認められていない。
この2つの症例で共通するのは、最初に歯肉の部分に小さい膿瘍が2、3個見付かった点だ。「1つ目の症例でここから骨の露出まで進んだことを考えれば、これが顎骨壊死の極初期の症状だといえるだろう」と大田氏。2つ目の症例で、BP製剤を休止した後に抗菌薬で治療することで膿瘍が消失したことから、「極初期から抗菌薬を投与することで、骨露出を食い止められる可能性がある」(同氏)としている。2つ目の症例ではBP製剤の投与再開も考えているという。
また、ここで紹介しなかった残りの3例(乳癌骨転移2例、多発性骨髄腫1例)も、アモキシシリンの長期投与によって、症状は寛解もしくは完治した。
BP製剤の副作用としての顎骨壊死は、専門医の間で認知が広がりつつある。だが、「顎骨壊死として掲載されている写真はどれも完全に骨が露出または壊死してしまっているもので、初期の状態を含めた臨床経過は見たことがない」と大田氏は語る。
今回の顎骨骨髄炎の早期病変の写真を参考に、BP製剤を投与している患者の口腔内をチェックしたり、苦味や口腔内の不快感を聞いてみることが、早期発見の一助になりそうだ。「症例の蓄積や治療法の改良を行うことで、今後、癌患者の増加で増えると見られるBP製剤の副作用を早期発見し、治療に結びつけていきたい」と大田氏は話している。