いくら面白くするためといっても、史実と異なることをやっては大河ドラマの値打ちが下がるというものである。
以下は、中澤さんのご意見。長澤まさみを使いたくて墓穴を掘っているNHKが垣間見える。反省すべきでしょう。
2009年の大河ドラマ『天地人』は、加藤清史郎くん(こども店長)以外にほめるところが見つからないという、わたしにとっての歴代ワースト作品となった。今回は、このドラマを通して「オリキャラ」(オリジナルキャラクター:架空の人物)の難しさを考えてみたい。
長澤まさみが演じる初音というオリキャラは、「当初は」真田幸村(注)の「妹」で織田信長に仕えているが実は間者という、中二病をこじらせた中学生がガンバって考えた感に満ちあふれた設定。これだけでもかなり笑えるが、信長が上杉謙信に「洛中洛外図屏風」を贈る使者として登場してしまったことで、困ったことになった。信長が洛中洛外図屏風を贈ったのは、天正2年(1574年)。これは史実なので動かせない。初音の「兄」幸村は永禄10年(1567年)生まれなので、このとき満年齢で6、7歳。さて、その妹は何歳だろうか?
注:本名は信繁。本人が「幸村」と名乗った史料は存在しない。
この設定はいくら何でも無理がありすぎる。批判を受けたNHKは、前代未聞の対応を取った。『天地人』第4回放送後に、初音の設定を幸村の「姉」に変更したのである。しかし、これで万事解決! ……とはいかないのである。
今度は初音と幸村の父、真田昌幸の出番だ。彼は天文16年(1547年)の生まれなので、初音登場時27歳。初音が1574年時点で20歳なら信長の使者が務まるかもしれないが、昌幸が7歳のときに生まれたことになってしまう。逆に、昌幸の史実での第一子である長女(村松殿)と初音を同年とすると、昌幸18歳時の子となり無理がないが、初音は1574年時点では9歳にすぎない。初音を村松殿の姉としても構わないが、それ
で上積みできるのは2、3歳が限度だろう。不自然さはまったく解消されない。
「初音問題」の原因は、信長が外交上重要視していた謙信への使者として初音を登場させてしまったことである。これにより、「信長が使者とするにふさわしい身分・年齢」が問われることになった。単に信長のそばに侍っている(注)だけなら幼女でも何でもよいが(ホントにいいのか?)、使者では無理がありすぎた。
注:『天地人』では毎回、信長が初音を侍らせてワインを飲んでいるシーンがあり、ネット上では「スナックまさみコーナー」とやゆされた。なぜか信長が初音と屋根の上に立っているシーンもあった。これは「屋根の上のトニョ」と呼ばれた。
歴史モノのオリキャラは、話を動かす上で便利な駒だが、使い方が難しい。ドラマにしろ小説にしろ、オリキャラが成功した例はほとんどない(『太平記』の一色右馬介はよかった)。使いこなす技量がないなら、オリキャラなんて出さなければよいと思うのだが。