NASAの土星探査機カッシーニがさまざまな波長や新たな周波数を用いて撮影した土星の環のクローズアップ画像から、数々の驚くべき新事実が明らかになった。慌ただしく変化する環の配列や、高速で衝突する小衛星のほか、酸素の大気が存在することも判明した。
今回発表された研究の共著者で、カリフォルニア州モフェットフィールドにあるNASAのエイムズ研究センターの惑星学者ジェフ・カッジ(Jeff Cuzzi)氏は次のように解説する。「土星の環は巨大な結晶構造で、A環の軌道半径は地球と月の距離の約3分の1に相当する。しかも、その一部は1週間から1カ月というペースで変化を遂げている。例えば最も密度が高いA環とB環の端部は、激しく波打つ水面のように大きく揺らいでいることがわかった」。
同氏によれば、このように激しく歪む端部こそ、「土星の環は液体に近い」という新発見の確かな証拠であるという。
また、最外周に位置する細いF環についても新発見があった。直径数キロの未知の小衛星がF環内部に数十個存在し、まるで遊園地のバンパー・カーのように激しく衝突しながら飛び回っているという。「小衛星の正体や起源はいまのところ不明だが、あちこち衝突しながら内部を暴走しているようだ。“安定している”とはとても言えない」とカッジ氏はコメントする。
さらに今回は、環の周辺に漂うガスの主成分が酸素であるという驚きの事実も明らかになった。「水分子(H2O)だろうとは考えられていた。しかし、その分解産物である水素(H)とヒドロキシ基(OH)を酸素に変える化学反応が環系で起こるとは予想外だった」とカッジ氏は話す。
土星の一部の環には赤い斑点があり、その発生理由は昔から謎とされてきたが、今回の発見で議論に終止符が打たれるかもしれない。「環を構成する岩石中の金属が酸化し、赤みを帯びるのではないか。いわゆる“錆”が生じているのだろう」と同氏は解説する。
カッシーニ担当チームの一員で、今回発表されたもう一方の研究の共著者であるコロラド大学ボルダー校のラリー・エスポジート氏は、「土星の環は原始惑星系円盤によく似ている」と話す。原始惑星系円盤とは、若い恒星の周囲を取り巻くちりや岩石から成る円盤のことで、惑星誕生の場と考えられている。
土星の環系が実際に惑星の形成現場になり得るとしたら、原始惑星系円盤に対する従来の見方を変える必要が出てくるかもしれない。「今回の画像から、原始惑星系円盤では想定外の構造や現象を確認できた」とエスポジート氏は話す。
その1つが集積現象であり、同氏によれば、土星の周囲で確認された最も驚くべき事象の1つだという。カッシーニの画像を分析したところ、複数の小さな氷岩石が重力の影響で一時的に結合し、直径約10メートルの巨大な塊を形成していることが明らかになった。
エスポジート氏はこう説明する。「この発見から判断して、密度が高いA環やB環内の力学は想像をはるかに超えて複雑であり、質量も推定より大きいと考えられる。環の実際の質量が判明すれば、その起源についても何かわかるかもしれない」。
しかし正確な数値の入手は7年ほど待つことになるだろう。カッシーニは2017年に任期を終え、土星に廃棄される予定だが、表面へ急降下する際に環の質量を計測することになっている。
エスポジート氏は次のように話を締めくくった。「土星の環の起源や形成時期はカッシーニの働きで謎解きが進んでいるが、いまだ正確な答えは出ていない。なんとか解明したいと思っている」。
Brian Handwerk for National Geographic News